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【最新の更新情報】
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1/7 あけましておめでとうございます。次回公演情報2本の詳細、雑誌『えんぶ』掲載情報を更新しました。
12/13 佐々木のmimacul出演、合田の大喜利参加、佐々木の出演した上映会、の情報を更新しました。
12/12 今年の公演や劇団員の活動履歴などをたっぷり更新しました。
9/30 合田団地『リゾート(なかった青春の末路としての)』無事終演しました。ありがとうございました。
5/27 お仕事が欲しいので、メンバー紹介ページをつくりました。

【鬼が笑う今後の予定】
2023年2月:京都ロームシアター×京都芸術センターU35創造支援プログラム“KIPPU”として新作本公演を予定。

劇評①八坂百恵 氏

 ①八坂百恵(1/23(土)14:00回を観賞)

「見てておもろい」私たち

 努力クラブの作品を観劇するといつも、居心地の悪さとともに、過去の記憶やそれに伴う忘れていた感情が呼び起こされる。作品に触れる前に少しだけ、私自身の話をしたい。

 何故か私には、幼稚園の頃から友達がいなかった。小学校にあがっても、遠足になると、ママが張り切って作ってくれたお弁当をひとりぼっちで食べた。高学年になり、コミュニケーションのキャッチボールにおいて、私は貰ったボールを明後日の方向に投げ返していることに気づき、皆が私に優しくしてくれない原因はこれだ、と理解した。その後、話を聞くのが上手い同級生たちを必死になって分析し、なんとか人と話せるようになった。会話ができるようになってからは、「お前、おもろいな」とよく言われた。「話がおもろいんじゃなくて、見てておもろい。話は別におもろない」らしい。認めてもらっているような気もするが、馬鹿にされているような気もする。しかし、せっかく相手にしてくれるようになった同級生たちを遠ざけたくなくて、調子よく振る舞った。主人公の西さんに対して投げかけられる「面白い」と私が言われ続けた「おもろい」は、同質だ。ただ、幼い女の子だった私は西さんと違って「私、気持ち悪いですよね」などと人に言って回る勇気はなかった。

 西さんは、誰からも優しくされなくて寂しい、独り身のおじさんである。夢に出てきた可愛い女の子に優しくされたら一日中ニコニコするし、初対面の女性たちには「僕、気持ち悪いですよね」と自己紹介するし、毎晩死にたいと思いながら眠りにつく。ゆえに可哀想なおじさんとして皆から扱われ、優しくされたいと泣き叫び、『救うか殺すかしてくれ』と喚いた挙句、最後には殺されてしまう。

 西さんが殺されるとき、殺し屋ジョニーは西さんを後ろからわざわざ振り向かせ、心臓をひと突きすればいいものを腹部を数回刺した。なぜか。よほど恨みがないとこんな殺し方はしないが、殺し屋ジョニーは西さんと話したことすらない。「おなかが、いたーい!おなかを、何度も、刃物で刺されたから、いたーい!」と叫んで、西さんは絶命した。

 20197月にUrBANGUILDで開催された企画3CASTS vol.3内で、本作戯曲と演出の合田団地は『たのしい!』を上演した。『救うか殺すかしてくれ』の西さんを演じる西マサトが、好意を寄せる女子から腹部を何度も刺され、「おなかが、いたーい!おなかを、何度も、刃物で刺されたから、いたーい!」と繰り返し叫ぶコメディである。『救うか殺すかしてくれ』で西さんが殺されるシーンの演出は、ここから引用されている。つまり西さんは、面白くて可哀想なおじさんのまま、シーンが重くなりすぎない方法で殺されたのである。それが、緩急つけながら軽快さを全編で持続させ、最後まで西さんを面白くて可哀想なおじさんのまま、舞台上に存在させる方法のひとつだった。劇中、佐々木君の彼女が西さんのエピソードを聞いて大爆笑するときの居心地悪さも、西さんの理想が具現化した夢ちゃんが、西さんが何もしなくても積極的に段階を踏んで甘えて来てくれる可笑しさも、西さんが「誰も優しくしてくれない!」「俺を寂しさから助け出して!」「愛されたい!」「間違えて生まれてきてしまった!」とストレートに感情を叫ぶのも、西さんを面白くて可哀想なおじさんのまま舞台上に存在させるためである。西さんを演じた西マサトには、そのうえで観客に愛されるための絶妙なバランス感覚があった。

 努力クラブの優しさは、強者のつもりで寄り添ったり、高みから見下ろしたりしないところだ。可哀想なおじさんが舞台上にいて、大勢がそれを見ているという状況は、より一層観客に加害意識を生まれさせ、おじさんのことを笑ってはいけないような気にさせてしまうのかもしれない。確かにこの作品が扱うのは、不器用なおじさんの生きづらさである。西さんの、女の子からモテることに異様にこだわるところや、職場の後輩たちと男性ホモソーシャル特有の上滑りしたハイテンションで自分の負の感情を茶化すところなどを見ると、社会から押し付けられた男性像・おじさん像に囚われて苦しんでいるように見える。しかし、それだけだろうか。私が、面白くて可哀想な西さんに「見てておもろい」幼かった私を投影したように、これは、理想通りに他人と上手くやれず、自分に与えられた記号に囚われてしまう私たちの話でもある。努力クラブは、上手くやろうとして間違えてばかりで恥ずかしい、不器用な私たちにとっての救いに、自らはなろうとせず、舞台上のおじさんを眼差すことで観客に気まずくなったり居心地悪くなったりさせながら、私たち全員に、不器用さを無視させないでおこうとする。

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八坂百恵

1995年生まれ。京都在住。同志社大学文学部美学芸術学科卒。浄土複合ライティングスク

ール2期生。現在は京都市内の商店街の中にある文化複合施設で、映画スタッフをしている

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