野口萌花(1/24(日)15:00回を鑑賞)
努力クラブ『救うか殺すかしてくれ』1月24日15時の部を鑑賞しました。僭越ながらその劇評をさせていただきます。 私は24日の15時の部を見に行きました。感染症対策で劇場の客席は一席ずつ間隔が空いており、真ん中のブロックを中心に人で埋まっていました。舞台装置は中心に厚いパネルのようなものがあり、そこに時折街のネオンのような照明が照らしだされるという感じでした。
話の内容自体は複雑なものではないように感じました。中年男性(『西さん』という名前でしたので、以下では西さんと表記します)が女性に好意を抱くものの、現実や自身のせいでどれもうまくいきません。しかし最終的に彼は救われます。
この西さんという中年男性は物語の主人公であると同時に、彼が主人公であることにより作品に現実味が増しているように感じました。物語の主人公として西さんが突飛な存在なのではなく、我々の日常の中で西さんのような人、あるいは西さんを構成する要素を持つ人に遭遇することがあるからです。こういう人いる、もしくは、西さんのここの部分あの人と似てるなと思えてしまいました。そういう視点を獲得した上で、物語に向き合うとこの物語が100%有り得ないことではなく、この世のどこかで起きていることなのかもしれないと思えてしまうのです。
後半の展開は突飛なところがあり、さすがにその辺に共感することはできませんでしたが、その前までの部分が現実的だった分、こんなことが起きたら面白いだろうなと思いながら見ることができました。西さんをはじめとする様々な登場人物や物語全体が突飛すぎて、物語あるあるの『現実世界では起きなさそうではあるものの、実際に起きたら面白そう』という考えを超え、『どこかで起きているかもしれない100%有り得ないと言えない』物語に見えました。シーンを盛り上げる役割に徹していたような人物たちも、相手や話の進みによりその人格に共感できるように見えました。虚実の同居と言えば抽象的かもしれませんが、人物や場面の中から垣間見える日常と、話の展開や神様といった非日常が見事に同居し、そのギリギリのラインを踏み越えることなく進行した舞台だと感じました。
ただ、細かな場面転換だったり、机や布団などの中道具の置き方に関して演出意図が見えない部分がありました。それらが芝居を邪魔していたわけではありませんでしたが、この場面とこの場面の切り替わりはこのシーンの前で行っていたものと同じでも良かったのではないのか、だったりそれと逆のことを考える部分もありました。
静寂が多く、役者の皆さんの間の効果が存分に発揮され残酷なまでに現実的で、笑って良いような、笑ってはいけないような気になりました。
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野口萌花
関西大学演劇研究部学園座所属。演劇を観るのもするのも好きという自称演劇オタク。主に小劇場のお芝居を観るものの、観たい舞台があるなら大阪を超え県外にも観に行く(このご時世に誇れることではないが)。早くコロナが落ち着いて演劇活動が活発になることを祈っている。
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