②綱岡勇人(1/23(土)14:00回を観賞)
救いたいのだけれど・・・
救ったほうがよかったのだろうか。それとも殺すのが正解だったのか。「どうしようもないやつ」というのはどこにでも一定数いて、多くの人が「どうしようもないやつ」に優しくありたいと思いつつ、もしかしたら自分が「どうしようもないやつ」なのではないかと不安になったりもする。そんな心の影、社会の影を、努力クラブはユーモアとともに存分に皮肉った。
劇中に「楽に・死ねる・薬」という主人公の幻聴が何度も登場するので、麻薬か何かが物語に絡んでくるのかと思ったが、薬の類は一切登場せず、「楽に死ぬ」という結末でもなかった。幻聴を繰り返すくらいだから西さん(主人公)は楽に死にたかったのだろうが、そうはいかないところが切なく哀れだった。さらに西さんの死を誰かが悲しむどころか、神様に「ごめんなさい」と言われ、殺した本人たちは「一仕事終えた」程度にしか思っていない。あんまりだと思いつつ、どこかリアルだとも感じた。
登場する演者たちは、西さんと西さんを取り巻くその他の人々という位置づけであったが、西さん以外のキャラクターもウェイトは軽いもののそれぞれの価値観や考え方がしっかりと伝わってきた。西さんはいわば「ダメなおじさん」で、「自らダメになってしまう」のだが、それが台詞と一挙手一投足によくにじみ出ていて、歯がゆい気持ちにさせられた。中でも相談に乗ってくれていた女性に「もう会えない」と打ち明けられ、泣きすがるシーンは西さんの人間的な弱さがよく出ていた。その女性は登場人物の中で唯一西さんのことをどうでもいいと思っていない人物だったが、葛藤の末結局「救わない」という決断を下す様子が自然に伝わってきたし、物語を展開させる役割をしっかりと担っていた。他の登場人物に関しては個性的な部分もあったがかなりあっさりとした淡泊な印象で、粘着質な西さんをよく際立たせていたように思う。舞台装置や演出も全体的に質素すぎる気もしたが、それがある種の侘しさを醸し出し、陽ではなく陰の物語であることを実感させた。
結局、救いようがなかったのだろう。西さんが殺してほしいと願っていたわけではないが、「救うか殺すか」で言うと殺すしかなかったのである。だが殺すのが正解だったとも認めたくない。そう考えて今一度劇を振り返ってみると、なぜ殺すしかなかったか、その理由と原因を順を追って丁寧に説明していく作品であるようにも思える。悲劇か喜劇かは判別し難いが、救いのない物語であるとは断言できる。
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神戸市在住26歳独身サラリーマン。大阪で仕事をしながらアフター5や休みの日はスプレーアートを楽しむ。
趣味は演劇・映画・音楽鑑賞、写真撮影、読書、旅行、釣り、剣道。
演劇は、中学生の頃に宝塚歌劇にハマったのをきっかけにミュージカルを中心にオペラ、大衆演劇、コメディ、英語劇などジャンルを絞らず鑑賞。時間があるときは劇評などを執筆。